1. 福岡市動物園
  2. 福岡市動物園について
  3. 職員による雑誌等への寄稿文
  4. 自然への目を育む「ノアの箱舟」に ~動物園の役割~

福岡市動物園について

職員による雑誌等への寄稿文

西日本新聞「意見」 自然への目を育む「ノアの箱舟」に ~動物園の役割~

投稿日 : 2015年7月31日

 「うわ~、おっきぃ~」。ゾウ舎の前から遠足の子どもたちの歓声が聞こえてくる。子どもたちは大地を震わすライオンの声に驚き、羽を広げたクジャクの美しさに見とれ、高所に張り巡らされたロープをひょいひょいと渡るテナガザルの軽業にあぜんとする。そして「来てよかったね」と感動を胸に家路につく。

 人は人生で平均5回、動物園を訪れるといわれる。幼少期には親に抱っこされたり乳母車に乗せられたりして、学童期は楽しい遠足で。成長して恋人とデートを楽しみ、家庭を持ってわが子を連れて来る。そして老年期には、孫から手を引かれて笑顔で来園する。

 福岡市動物園は昨年度、入場者数が100万人に届くところまできた。欧米では動物園は、博物館や美術館と並び、地方文化の指標の一つとされている。市民の憩いの場である動物園だが、社会の変遷に伴って、その存在意義も進化してきている。単に動物を展示するだけの場ではなく、社会に対する役割を持ったサービス施設として機能しているのだ。

 最も分かりやすい役割はレクリエーションの場としてのものだ。二つ目は、教育の場。生涯教育という言葉を耳にしだしてから随分たったが、飼育係員による説明やガイドツアーなどによって、動物を見ただけでは分からない野生の生態や取り巻く現状が分かる。係員は何も語れない動物に代わって、それを伝え、来園者の知的好奇心を満たし、自然科学への目を育てている。

 三つ目は調査、研究の場としてのもの。飼育技術、繁殖学、野生動物医学などの研さんを重ね、他の動物園と情報を共有し、成果を未来への資産としている。そして最後は、種の保存の場としての役割。乱獲や開発など、地球規模での環境破壊が続く中、生息域の減少などで絶滅が危惧される動物の種を、本来の生息域とは異なる動物園という施設で飼育繁殖させ、種の生命を守っている。

 本園では1996年に始めたツシマヤマネコ保護増殖事業をはじめ、ニホンコウノトリ、アラビアオリックス、オランウータンなど希少種の繁殖に取り組んでいる。本園で生まれたツシマヤマネコは長崎県佐世保市や横浜、京都、名古屋など全国10施設で分散飼育され、将来的な保護活動に備えている。

 世界中の動物園、水族館の共通理念でもある、こうした四つの役割を本園は実践している。動物園はかけがえのない地球の未来への遺産を乗せた現代版「ノアの箱舟」だ。みなさんと一緒に、未来にこぎだしたい。

(動物相談員 古賀晉)
福岡市動物園公式ブログ

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