福岡市動物園について

職員による雑誌等への寄稿文

「電気と九州」2006年06月号 野生鳥獣の保護について

投稿日 : 2007年4月24日

ゴールデンウイーク期間中の5月5日の朝、福岡市動物園内の動物病院にふ化したばかりの4羽のムクドリのヒナがやって来ました。
 そのヒナたちは、何かのはずみで巣から落ちてしまい、そのままでは危うく猫やカラスに捕らえられるかもしれないところを住民の善意により動物園に持ち込まれたものです。
 小鳥用のICU(集中治療室)内で保温された4羽のヒナは、ミルワーム(エサ用の虫)をピンセットで摘んで差し出してやると、黄色くて大きな口をいっせいに開いて先を争うようにして食べました。
こういった野生鳥獣の保護は、環境省を中心に各都道府県で行われていますが、福岡市動物園でも、福岡市内やその近郊で保護された傷病野生鳥獣を毎年多数収容して、治療を行っています。
 平成17年度に福岡市動物園に収容された傷病野生鳥獣は、哺乳類が9種34点、鳥類が71種619点、爬虫類が3種3点で、合計83種656点でした。
 収容件数では、鳥類が飛び抜けて多く、種類別では、ハト・ツバメ・スズメ・ヒヨドリなど私たちの身近にいるものが上位を占めています。
 収容された原因別の内訳は、骨折や栄養不良による衰弱などさまざまですが、なかでも巣から落ちるなどして拾われたヒナの収容が大多数を占めています。
通常なら保護されてきた小鳥たちの生存率は非常に低いのですが、4羽のムクドリのヒナたちは幸運にも元気に育っていきました。鳥の成長は驚くほど早いもので、最初は短い産毛で覆われていたのがみるみるうちに大きくなり、10日後の15日にはやや大型のケージに移してやると止まり木の間を飛びまわれるほど活発になり、給餌のために扉を開けた一瞬の隙にケージから出て室内を飛び回るほどになっています。もうあと1週間もすれば元気に飛び立っていくであろうと思われるほど一見順調です。

 自然界では、野鳥のヒナのは、卵からかえって羽が生えそろうとすぐに巣立つ準備を始めますが、中にはあわてものだったり、巣から飛び出す段階ではうまく飛べずに落ちてしまうものがいます。自然界での命のサイクルとして他の生物の食物となることも多く、ヒナたちにとっては毎日が命がけです。しかし、親鳥が給餌や誘導をするうちに、少しずつ飛べるようになっていくものもいます。
 また、巣立ち後に親鳥と過ごす1週間から1ヶ月ほどのわずかな期間に「何が食べ物で、何が危険か」などを学習してひとり立ちするので、この期間は鳥が鳥として自然の中で生きていくために非常に重要な期間であり、人に育てられたヒナは自然の中で必ずしも生きていけるとは限りません。人工的に育てた鳥を森へ、海へ、大空へ放つ時、その無事と次の世代を残せるよう祈る気持ちで一杯です。
地上に落ちているヒナを発見したら、近くに親鳥が見守っているかもしれません。場合によってはかわいそうだから保護してあげたいという気持ちをぐっと抑えて、自然な生育を祈ってその場を立ち去る勇気が必要な時もあります。ヒナを保護することは親鳥にとっては自分の子と引き離されたことになるからです。

人間と野生動物が共生していくためには、野生動物との適切な関わり方を人間が学んでいく必要があります。飼育展示動物はいうまでもなく、保護動物を通じても野生動物についての正しい知識と命の大切さを普及啓発していくことも動物園に課せられた大切な役割のひとつであると思っています。

(福岡市動物園 川越 浩平)
福岡市動物園公式ブログ

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