福岡市動物園について

職員による雑誌等への寄稿文

電気と九州2008年12月号 ゾウの引越し

投稿日 : 2009年1月07日

ただいま福岡市動物園では、あちこちで獣舎の新築や改築が行われています。再生事業では限られた敷地の中で現在ある獣舎を解体し、そこに新しい獣舎をつくるというパズルのような工事を行っています。昨年の7月に管理センターが移転しました。現在その跡地には新しいゾウ舎(ゾウを夜間収容する建物)を建てています。新しいゾウ舎と現在ゾウが昼間過ごしている運動場はちょうどお向かいで30メートルくらいしか離れていません。目と鼻の先とはこのことでしょうが、今回は「たった30メートル」とはいえません。(写真右側の白い建物が現ゾウ舎寝室,左側のさら地が新ゾウ舎寝室予定地)
 通常、動物の引越しというのは小さい動物なら網で捕まえたり、大きなものだと麻酔で眠らせて輸送用の箱に入れて運びますが、ゾウの場合はそういうわけにはいきません。引越しのための下調べは1年以上前から始めており、他の動物園の引越しの方法を参考にしたり、意見を聞いたりして、今回おふく(58歳)とはな子(37歳)の2頭には移動用の通路を作ってそこを歩いてもらうことにしました。
 ゾウは体は大きいですが、とても神経質で臆病なところがあります。おふくは毎日過ごしている運動場でさえ、はな子が出ないと自分も出ないほどです。たまにはな子が運動場に出るのを嫌がることがありますが、おふくははな子のお尻を押して催促するだけです。10年間世話をしてきましたが、わたしが知ってる限りではおふくが先に出たのは1度だけです。こんな調子なので通路を作ったとしても自ら進んで移動してくれるのはあまり期待できません。しかも、おふくもはな子も30年以上今のゾウ舎に住んでいます。ただ待っているだけだと何ヶ月もかかるかもしれません。ゾウが新ゾウ舎に引越したら今まで住んでいたところを解体して運動場をつくります。工事の日程は決まっていて、移動に使える日数は限られています。
短期間でゾウを移動させる方法もありますが、ゾウが精神的ダメージを受けることが予想されます。幸いにも引越しまでに時間があるので、30メートルの半分は運動場を拡大する形で広げて2~3ヶ月かけて慣れてもらうことにしました。残りの15メートルは1ヶ月以内で移動してもらわなくてはいけません。ゾウが自分で動かない場合、最終的には足に鎖を巻いて新ゾウ舎に引き込むことになります。といっても人の力でゾウが動くはずもないのでせめて戻らないようにする必要があります。そのためには足に鎖を巻くのが絶対条件なのですが、おふくもはな子も10年以上足に鎖を巻いていません。数年前から号令にあわせて足を出したりするトレーニングを行ってきました(写真)。そのなかに鎖を巻くための練習を1年ほど前に追加しました。足を出すことには慣れていても、初めてのことにはゾウも抵抗したり驚いたりします。いきなり鎖を巻くのではなく、段階を踏んで徐々に慣らしていきました。はな子は9月にやっと巻くことができ一安心。おふくは年をとっていることもあり、もう少し時間がかかりそうです。
2009年になると運動場拡大のため観覧スペースが減ったり、工事のためにゾウに会えない期間があるかもしれません。来園者のみなさまにはご迷惑をおかけすることになりますが、新しいゾウ舎は今より広く、2010年完成予定の運動場は土になり、ゾウの魅力が伝わる工夫も盛り込んでいます。私たち動物園関係者も動物たちが安心して安全に引越しできるよう努力していますので、あたたかく見守っていただけたら嬉しいです。


          (福岡市動物園 飼育展示係 伊藤 姿子)
福岡市動物園公式ブログ

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