福岡市動物園について

職員による雑誌等への寄稿文

電気と九州2007年10月号 楽しい思い出を作る場所

投稿日 : 2008年4月26日

私は、福岡生まれの福岡育ち。その為、幼稚園から小学校にかけて、遠足はいつも福岡市動物園でした。私が小学校に入学した年の歓迎遠足では、当時はまだ運用されていた北門から入園し、現在のサル山がある当時はまだ広場だった場所に集合して、六年生と手を繋いで園内を歩いたことを今も記憶しています。

 動物園の存在意義として、【種の保存】【研究】【教育】そして【レクレーション】が挙げられます。日本国内の動物園は、諸外国の動物園に比べて前者の三つの課題については、少々遅れている感があります。ユニークな取組みで注目される旭山動物園の影響もあり、各マスメディアで動物園が注目をされる機会も増えた現在、「動物園の在り方」について、大きく見直す時期に差し掛かっているようです。そんな中で、特に公立の動物園に於いては、この前者三つの課題について、最重要視されるものであることは、間違いないと思われます。

 しかし・・・、動物園に勤務する者として、このような事を言うのは如何なものかと思いますし、誤解を覚悟で発言させていただければ、私は、動物園にとって最も大切なものは【レクレーション】としての位置づけだと考えています。【種の保存】【研究】【教育】その為の施設や人材がどんなに充実しても、そこを訪れる多くの家族連れや子供達にとって、そこが「楽しい時間を過ごすことの出来る場所」でなければ、動物園としての価値は半減してしまうのではないかと。

 無論のこと、【種の保存】【研究】【教育】について蔑ろにして良いとは考えていませんが、むしろこの三つについては、先ずは我々動物園側の者が努力していくべき事であって、動物園を訪れる入園者に対して無理強いをするべきものでは無いとも考えます。
 
 サービス業に於いては、利用する側が「求めるもの」と、提供する側が「与えるもの」とが一致しなければ、ビジネスとして成立しないのでしょうが、動物園に於いて動物園側が「提供したいもの」、「発信したいもの」が、動物園を利用する入園者の「知りたいもの」「感じたいもの」と一致することは、現時点では、まだまだ簡単な事ではないような気もしています。
 ただ、そんな中でも「動物園が楽しい場所」であって欲しいと願うことは、全ての人にとっての共通した理念ではないかと思います。
 私が、30年以上も前に訪れた福岡市動物園での事を今でも記憶しているのは、それが「楽しい思い出」であったからに他なりません。

 これからの時期、秋の行楽シーズンを迎え、福岡市動物園にも、多くの家族連れや遠足の子供達がやってきます。そんな子供達も、その日の事を、20年後や30年後まで楽しい思い出として記憶していてくれるとしたら、とても素敵な事だと思います。
【教育の場】としての動物園も必要なことかもしれませんが、【楽しい時間を過ごす場所】【楽しい思い出を作る場所】としの動物園は、もっと必要だと思います。
勿論、選択肢は多いほうが良いに決まっている。だとすれば当然の事【種の保存】【研究の場】と言う課題が動物園にあることについて、異論はありません。
でも、学名なんか覚えて帰らなくでも良いんです。野生の生息個体数なんて知らなくても良いんです。極端な話、今日見た動物の名前なんか忘れてしまっても良いんです。動物園から帰る子供達が、「今日は楽しかった、また来たいね。」って思ってくれたら、私はそれで良いと思います。

(福岡市動物園 飼育展示係 片原敏成)
福岡市動物園公式ブログ

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