福岡市動物園について

職員による雑誌等への寄稿文

電気と九州2012年8月号 隠れ人気者のキョン

投稿日 : 2012年8月11日

皆さんの好きな動物は何ですか?
 ゾウやキリン、サイなど体の大きな動物は存在感があり、私はその雄大な姿を初めて見たときとても感動したことを覚えています。また、これらの動物は動物園でもとても人気があります。
 そんな中で、体長約70センチ、体重約10~14キロの小さな動物、「キョン」。キョン舎で掃除をしていると、キョンを目にしたお客様から、「何これ?」「まだ赤ちゃん?」「ダックスフントみたい。」「ウサギさん?」といった会話が聞こえてきます。そして最後には「可愛いー!!」の声をいただいています。
 「キョン」とは小型のシカの仲間で、当園にいる3頭のキョンはこう見えても立派な大人です。スラっとした細い足、まん丸の可愛らしい目は、女性としてはうらやましい限りです。
 特に、2010年に伊豆大島の大島公園動物園からやってきたメスの「つばき」と「あすは」は、人工で育ったこともあり、とても人に慣れています。飼育員が近づくと、「撫でて!」とばかりに寄ってきます。唯一のオスである「テンテン」は当園で生まれずっとここで暮らしているのですが、本来のキョンらしいという感じで、警戒心が非常に強くエサを与える時しか近づいてきません。それ以外の時は、あの小さな細い足で地面をトントンと鳴らし威嚇してくるのですが、その可愛らしい姿では全く怖くありません。
野生のキョンは中国南東部、台湾に生息しているのですが、そのキョンが日本の自然にも生息していることをご存じですか?実は現在、千葉県の房総半島と伊豆大島の自然で増えているのです。はたしてキョンが海を泳いできたのでしょうか…。それは人の手により日本へやってきて飼育されていたキョンが逃げ出し野生化してしまったと言われています。日本の自然環境に適応し、野生化したキョンは農作物を荒らし、本来住んでいた動物の生態系を脅かすことになってしまいました。そのため、2005年に「特定外来生物」に指定されました。これに指定された動物は許可なく国内へ持ち込んだり飼育したり出来ません。こうして野生化してしまったキョンたちは今、捕獲・駆除されています。それでも一度増えてしまったものをゼロにもどすことは大変難しいことでしょう。
 特定外来生物には、他にアライグマやマングース、タイワンザルなど、皆さんが一度は耳にしたことがある動物がいます。はたして増えてしまい迷惑者になった彼らだけが悪いのでしょうか?もともと日本にいなかった彼らが、何故ここで害獣とされているのかよく考えていただけたらと思います。
 一つの例として、最近は外国の珍しい動物を比較的簡単に手に入れることができます。そうして手に入れた動物をペットとして飼ったものの、様々な理由により飼育できなくなって外に放してしまうことも多いそうです。そうして放たれた動物たちは、生きていくために他の動物を食べたり、農作物を荒らしたりしてしまいます。一度飼いはじめた動物は最後まで責任をもって飼うということも、生態系や自然を守っていくことに繋がるのです。
 私は動物園が皆さんにとって、憩いの場、レクリエーションの場としてだけではなく、園内の動物たちを通して、自然界にいる動物たちがおかれている様々な現状を知っていただき、人と動物がうまく暮らしていくことができるにはどうしたらよいのかと考えていただける場であってほしいと思っています。

                       飼育展示係 河野 美和
福岡市動物園公式ブログ

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