福岡市動物園について

職員による雑誌等への寄稿文

電気と九州2012年2月号 『痛かった』思い出

投稿日 : 2012年2月05日

福岡市動物園の飼育員になって14年が過ぎようとしています。これからお話することは、私がこれまで飼育員として働いて忘れることの出来ない『痛かった』思い出です。
 飼育員になって2年目、「ひよっこ飼育員」の頃の話です。当時、私はフンボルトペンギンを担当していました。そのフンボルトペンギンが巣の中で卵を抱いているようなので、卵の状態を確認しようと巣に手を伸ばしました。すると卵を抱いていた親はビックリしたのでしょうか、私の手に勢いよく噛みついてきました。フンボルトペンギンのクチバシは、餌である魚を捕まえやすいようにフック状になっており、その先端は鋭く尖っています。そのクチバシが、私の右手にホッチキスのように食らいついて離してくれません。離してと言っても伝わるわけもなく、やっとの思いで離れた時、私は声を失って痛さと格闘していました。
 フンボルトペンギンも卵を守るのに必死なのです。フンボルトペンギンの立場になって考えていれば、やってはいけないことだと簡単にわかることでした。
 もう一つの思い出は、同じ頃にレッサーパンダの担当もしていたときのことです。みなさんはレッサーパンダといえば、後ろ足二本で直立することで有名になった千葉市動物公園の風太君のように、愛嬌のある可愛くておとなしい動物だと想像されることでしょう。私もその日が来るまではそう思っていました。
 その日は餌である笹をあげようと、オスのパンパン君がいる部屋に入りました。普段は餌をあげ終わるまでおとなしいパンパン君が、その日は違っていました。いきなり私をめがけて地面からジャンプしてきたのです。そして即座に私の二の腕に噛みつき、その状態でぶら下がりました。ペンギンを遥かに超える痛さです。
 レッサーパンダは犬歯が発達しているため、その歯は私の二の腕に食い込みました。フンボルトペンギンがホッチキスなら、レッサーパンダは穴開けパンチといったところでしょうか。ほんとうに痛かった!
 やっとの思いで振り払い、パンパン君が離れた後はその場にうずくまり、一刻も早く痛みが引くのを願いました。幸いなことに冬であったため、防寒着を着ていて大事には至りませんでしたが、それでも10年以上経った今でも、私の二の腕にはレッサーパンダの歯型がうっすら残っています。
 動物も私たちと同じ生き物です。イライラしたりすることもあります。この日は普段より餌を与える時間が遅く、パンパン君もお腹がすいて気が立っていたのかもしれません。もっとパンパン君の気持ちを考え、待たせることなく餌をあげていたら回避することが出来たでしょう。
 動物園にいる動物は、本来野生動物でありペットではありません。人間の言うことなど飼い犬・猫のように聞くわけがないのだということを、そして飼育員として、動物の気持ちを一番に考えて行動し、動物がストレスをためない居心地のよい環境を作っていくことの大切さを、とっても痛い経験から学びました。 

                       飼育展示係 米﨑まどか
福岡市動物園公式ブログ

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